コラム 106 これまで預貯金は遺産分割の対象ではなかった!? 2016/12/20

 

コラム106

新聞やニュースで「故人の預貯金も遺産分割の対象となる」という最高裁の判決を目にされた方もいらっしゃると思います。

「えっ。これまでは預貯金は遺産分割の対象ではなかったの?」と不思議に思われた方もいるのでは?。
かつてご自身が関わった遺産分割協議書を引っ張り出してきて「ここには預貯金も含まれているぞ。」と思われたかも。

この最高裁判決が出る前から,裁判所外で,協議で遺産分割するときは,預貯金もその対象に含めるのがむしろ一般的でした。
また,家裁の調停などでも,当事者間で預貯金も対象に含めることに異論がなければ,預貯金も遺産分割の対象に含めてきました。

ただ,法的にはこれはあくまでも例外的な処理であって,原則として預貯金は遺産分割の対象には含まれないとされていました。
それは平成16年に出た最高裁判決の影響です。
この判決では,相続に伴って預貯金は法定相続人の間で法定相続分に応じて当然に分割されるとされました。
たとえば遺産として1000万円の預貯金があって,相続人が妻と子ども2人だとすると,この預貯金は遺産分割をするまでもなく,当然に分割されて,妻が500万円,子どもらが各250万円ずつの預貯金を相続するものとされていたのです。

このように「当然に分割されるから,もはや遺産分割の余地はない」ため,遺産分割の対象にはならないというのが原則だったわけです。
そのような取扱いでは不合理な結果となるのが,今回の最高裁判決のケースでした。
相続人はAさんとBさんのふたりだったのですが,Aさんが生前に被相続人から約5000万円の生前贈与を受けていて,相続時の被相続人の財産は預貯金が約4000万円あるのみでした。
生前贈与を受けている分を考慮して遺産を分けるのが公平に適いますが,預貯金が当然に分割されるとなると,もはや遺産分割の対象になるものがないことになってしまいます。
これでは,生前贈与分を含めるとAさんは7000万円ほどを譲り受ける一方で,Bさんは2000万円ほどしか手にできないことになります。
最初に申しあげたようにAさんが預貯金を遺産分割の対象とすることに合意すれば別ですが,そのような合意をするメリットがAさんにはないため,Aさんは合意しませんでした。
そのため,原則どおり預貯金は当然に分割されるとして遺産分割の余地はないという判断を示したのが控訴審でした。
それを取り消したのが今回の最高裁です。

この最高裁判決によって柔軟な分配がしやすくなるといった評価がなされています。
しかし,その一方で,当然に個々の相続人に分割されない結果,相続人は金融機関から法定相続分に応じた払戻しを受けられないことになります。
葬儀費用などを捻出するために,遺産分割を経ることなく,このような払戻しを迅速に受けるニーズがあり,これまではそのような対応を金融機関もしてきたのですが,この最高裁判決によって,今後,金融機関の対応が変わることが予想されます。

この点について,今回の最高裁判決の補足意見では「家裁の実務で適切な運用に向けた検討が望まれる」として,解決策のひとつとして金融機関に仮払いを申し立てるという保全処分の活用を挙げています。
今後の実務や運用が注目されるところです。

弁護士 大川 浩介

 

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