コラム 207 「紀州のドンファン」事件 2021/05/28

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20210528山崎

 

「紀州のドンファン」と呼ばれた資産家が急性覚せい剤中毒で死亡した事件で,その妻が逮捕・起訴されたという報道がありました。

今後の刑事事件の公判で,直接証拠がないなか,検察側が妻の有罪立証ができるのかという点に世間の注目が集まっています。 

 

本コラムでは,妻が資産家を殺害する「動機」があったかという点にスポットを当てたいと思います。

 

「紀州のドンファン」事件で起訴された妻には,資産家を殺害するような動機があったといえるのでしょうか。

 

ここでひとつの手がかりとなるのは,妻が,資産家から,離婚を示唆されていたという情報です。 

もし妻が資産家と離婚することになれば,資産家の財産を相続する権利はなくなります。一方で,妻には,資産家との離婚する際に財産分与を求める権利があります。

 

ここで,資産家や芸能人が離婚する際に莫大な額の財産分与がなされたという報道がなされることもありますから,読者の方は,「資産家の財産を分与してもらえるのなら十分じゃないか」と思われるかもしれません。

 

しかし,離婚に伴う財産分与は「婚姻期間中に築いた」財産を分与する制度であるため,婚姻前に資産家が既に持っていた財産はその対象にはなりませんし,婚姻前から資産家が保有していた株式の配当金なども対象にはなりません。

 

資産家と妻が結婚してから資産家が死亡するまでわずか3ヶ月程度であったようで,その間に資産家の財産が大幅に増えることは考え難いため,妻と資産家との間で早期に離婚が成立した場合には,妻が財産分与により取得できる財産は必ずしも多くはなかった可能性が高いでしょう。

 

一方,離婚が成立する前に資産家が亡くなった場合には,妻は資産家について相続権を得ることになります。(実際には,資産家は自らの財産を田辺市に寄付するという遺言を遺していたようですが,その遺言書の存在を妻が知っていたか否かは定かではありません。)

 

このように,離婚と相続によって妻が取得する可能性のある財産の差に注目すると,妻に資産家殺害の動機があること自体は否定できないように思います。

 

ただし,動機の存在は犯人であることを裏付ける一つの事情にすぎません。犯行の動機があっても,現実には実行に移す人の方が圧倒的に少数でしょうから,動機があるからといって犯人と決めつけることは,とても危険です。

 

「紀州のドンファン」事件については,今後も当面,公判の審理を冷静に見守る必要がありそうです。

 

ところで余談ですが,「紀州のドンファン」という名前の由来となった「ドンファン」とは,17世紀のスペインの物語上の人物で,モーツァルトの有名なオペラ「ドン・ジョバンニ」も同じ人物がモチーフになっています。

 

物語のドンファンは,女たらしで,騎士長の娘を誘惑して父である騎士長を殺害してしまい,亡霊となった騎士長によって最終的に地獄に落とされてしまいます。

 

「紀州のドンファン」と呼ばれた資産家も,女たらしという面では物語のドンファンと共通するところがあったのかもしれませんが,一代で事業を興し,自らの努力で財産を築き上げた人物でした。

 

娘を誘惑して父の騎士長を殺した因果応報によって地獄に落とされる物語のドンファンとは異なり,重大な報いを受けなければならない理由はなかったでしょうから,犯人が誰であったとしても,その最期はまさに悲劇というほかありません。

改めてご冥福をお祈りしたいと思います。

                                           

                                                 弁護士 山崎 悠

 

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