配偶者の精神病を理由に離婚はできるか
配偶者の精神病を理由に、離婚を希望する方もおられるでしょう。
日々、精神を蝕まれていく配偶者を見るに堪えず、離婚を切り出したくなる気持ちも理解できなくはありません。
民法には、「配偶者が強度の精神病にかかり、回復の見込みがない」ことが離婚の理由になると明記されているため、配偶者の精神病が、回復を見込めないほど重度なのであれば、それを理由に離婚することは、さほど難しくないように思えます。
ところが、実際には、配偶者の精神病を理由に離婚することは容易ではありません。
先ほどの民法の規定について、最高裁判所は、夫婦の一方が精神病にかかったことをもって直ちに離婚の理由があるということを意味するのではなく、そのような場合でも、精神病にかかった配偶者の今後の療養や生活などについてできる限りの具体的な方途を講じない限り、離婚請求を許さないという趣旨であると判断しています。(このような考え方は「具体的方途」の理論と呼ばれています。)
つまり、配偶者が強度の精神病である場合には、十分な金銭的・精神的な支援が約束されるなど、離婚しても精神病にかかった配偶者が療養や生活を送るための具体的な目途がついているといった事情がない限り、配偶者の意思に反して離婚することはできません。
先ほどの最高裁判所の判断を目にするとき、私はいつも、結婚式で夫婦が誓いを交わす場面を思い出します。
神父(牧師)が新郎・新婦に対し、「あなたは、妻(夫)が、健やかなるときも、病めるときも、富めるときも、貧しき時も、妻(夫)として愛し、慈しむことを誓いますか」と問いかける、あの結婚式のお決まりの場面です。
幸せの絶頂にある新郎や新婦は、何の迷いもなく「誓います」と述べますが、先ほどの最高裁の判例は、まさにこの誓いのとおり、配偶者が「病めるとき」に一方的に見捨てることは許されないという考えを示しています。
60年以上前の判断ですが、その中に込められた、夫婦になった以上、一方に困難が生じた場合には、配偶者として支え乗り越えなくてはならないというメッセージは、現在の裁判実務にも受け継がれているのです。
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