職場での通称使用をめぐる東京地裁判決の波紋 2016/10/18

 

コラム 88 職場での通称使用をめぐる東京地裁判決の波紋  2016/10/18

 

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10月11日,都内の私立中高一貫校の30代の女性教諭が,結婚後に学校で旧姓使用が認められなかったため人格権を侵害されたとして旧姓の使用などを求めて提訴した事件で,東京地裁はこの請求を斥ける判決を下しました。

このコラムでも,昨年の夫婦別姓に関する最高裁判決をご紹介しました。
コラム 10 「想定どおり」であった夫婦同姓規定の最高裁判決 2015/12/21

最高裁は夫婦別姓を認めないことが違憲ではない理由のひとつとして,通称使用が広まれば夫婦別姓が認められないことによる不利益は一定程度緩和されると判示していました。

今回の東京地裁の判決に対しては,この最高裁判決や時代の流れに逆行するものとして批判的な意見が多いようです。

東京地裁は,旧姓を通称として使用する利益は,個人が結婚前に築いた信用や評価の基礎となるもので法律上保護されるとしつつ,学校側の対応については「職員を特定するために戸籍姓使用を求めることは合理性がある」としているわけですが,たしかに,通称使用の利益を上回るほどの合理性があるかは疑問があります(何となく前時代的な物言いで,この学校法人のイメージ戦略的にもどうかと思われます)。

もっとも,通称使用が広まりつつあるという現状では,学校側の対応が違法とまで言えるかというと,それは難しいようにも思います。
担当裁判官に女性裁判官がいなかったことも指摘されていますが,その点は必ずしも結論を左右するものではないように思われます。 まだ「過渡期」にあるなかでは,学校の対応が違法であるとまでして通称使用を司法が推し進めることはできないのかもしれません。

通称使用を認めている職場(学校法人も含め)や資格が増えつつあるなかで,この判決が,この流れにブレーキをかけるものとなるのか,あるいは,世論を喚起して通称使用を加速させるものになるのか,どちらもあり得るところです。
女性教諭が控訴したということですので,控訴審の判決も注目されます。

弁護士 大川 浩介

 

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